親が施設に入ったら、実家はどうする
売る・貸す・そのままの判断と、2つの期限
最終更新:2026年9月26日
親の施設入居が決まると、実家が空きます。葬儀のあとと違って急かされることがないので、「落ち着いてから考えよう」と何年も過ぎてしまうのがこの時期の特徴です。
ただし、静かに進んでいる期限が2つあります。ひとつは税金の期限(住まなくなってから3年)、もうひとつは親が自分で判断できるうちという期限です。どちらも、過ぎてから気づくと元に戻せません。
入力した内容はこの端末の中だけで計算しています。どこにも送信していません。
期限① 住まなくなってから3年
自宅を売るときは、譲渡所得から最高3,000万円を差し引ける特例(居住用財産の3,000万円特別控除)があります。親が実家を売る場合、これが使えるかどうかで税額が数百万円変わります。
ただし住まなくなったあとは、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までという期限が付きます。実務上は「住まなくなった年の3年後の12月31日」と考えてください。
施設に入った時点でこのカウントが始まります。「親が元気なうちは実家を残しておこう」と考えているあいだに、期限が過ぎていることがあります。
出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」/同「No.3314 過去に居住していたマイホームを売ったとき」
所有が10年を超えていれば、税率も下がります
売った年の1月1日時点で、家屋と土地の所有期間がともに10年を超えていれば、軽減税率も使えます。3,000万円の控除と重ねて使えます。
| 課税される譲渡所得 | 税率 |
|---|---|
| 6,000万円以下の部分 | 約14.21% |
| 6,000万円を超える部分 | 約20.315% |
所得税10%(復興特別所得税を加えて10.21%)+住民税4%。親が長く住んでいた実家なら、10年超に当たることがほとんどです。出典:国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
建物を取り壊して売る場合は、条件が1つ増えます
古い家を壊して土地として売る場合、次の両方を満たす必要があります。
- 取り壊した日から1年以内に売買契約を結ぶこと
- それが、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までであること
さらに、取り壊してから契約までの間に、その土地を貸駐車場などに使っていないことも条件です。更地にして「とりあえず月極駐車場にしておこう」とすると、特例が使えなくなります。
期限② 親が自分で判断できるうち
こちらには日付がありません。だからこそ見落とされます。
実家の名義は親のものです。子がよかれと思っても、親に代わって売ることはできません。親が契約の意味を理解できる状態でなければ、売買そのものが成立しません。
親の判断能力が落ちたあとに実家を売るには、成年後見制度を使うしかなくなります。家庭裁判所に申し立てて後見人を選んでもらう手続きで、時間も費用もかかります。
後見人がついても、実家は自由に売れません
ここが、あまり知られていない点です。成年後見人が本人の居住用不動産を売る・貸す・取り壊す・抵当権を設定するには、そのつど家庭裁判所の許可が必要です。
そして裁判所は、居住用不動産の範囲をこう説明しています。
「現に住居として使用している場合に限らず、本人が現在は病院や施設に入所しているため居住していないが、将来居住する可能性がある場合、又は入所前に居住していた場合なども含みます」
施設に入る前に住んでいた家も、居住用不動産に含まれます。つまり「もう住んでいないから普通の不動産」ではありません。
許可を得ずに売った場合、その売買は無効になります。
どのくらいの人が当てはまるのか
2022〜2023年の全国調査では、65歳以上の有病率はこうなっています。
| 認知症 | 12.3%(およそ8人に1人) |
|---|---|
| 軽度認知障害(MCI) | 15.5% |
| 合計 | 27.8%(およそ4人に1人強) |
施設に入居する年齢層では、この割合はさらに上がります。「うちの親はしっかりしているから」と考えている方ほど、判断能力があるうちに話だけでもしておく価値があります。
実家をどうするか、4つの選択肢
| 選択肢 | お金 | 手間 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| そのまま残す | 固定資産税・火災保険・光熱費がかかり続ける | 年に数回の風通しと草木の管理 | 管理が滞ると「管理不全空家」の対象に。勧告を受けると固定資産税が最大6倍 |
| 売る | まとまった現金になり、施設の費用に充てられる | 片付け・査定・契約で3〜6か月 | 親の意思が必要。3,000万円控除は3年の期限つき |
| 貸す | 家賃が入るが、多くは修繕費で相殺される | リフォーム費用と入居者対応 | 賃貸に出すと3,000万円控除も空き家特例も使えなくなる |
| 家族が住む | 維持費はかかるが空き家ではなくなる | 引っ越しと改修 | 他のきょうだいとの間で、相続のときに不公平感が出やすい |
「そのまま残す」を選んだ場合の税金については実家を空き家のまま放置すると固定資産税が6倍になりますで詳しく書いています。
施設の費用は、どのくらいかかるのか
実家を売るかどうかの判断は、施設にいくらかかるかとセットです。全国調査の平均は次のとおりです。
| 介護の月額費用(施設) | 平均 13.8万円 |
|---|---|
| 介護の月額費用(在宅) | 平均 5.3万円 |
| 一時的にかかった費用 | 平均 47.2万円 |
| 介護期間 | 平均 55.0か月(4年7か月) |
施設で平均的な期間を過ごすと、13.8万円 × 55か月 = 約759万円。一時費用を加えると800万円前後になります。年金で足りない分をどこから出すか、という話です。
ただし、売ると相続税が増えることがあります
実家を残したまま相続すると、小規模宅地等の特例で土地の評価額を330㎡まで80%減らせる場合があります。売って現金にしてしまうと、この特例は使えません。
見落としがちなのは、親が老人ホームに入っていても、この特例が使える場合があることです。次の条件を満たす必要があります。
- 亡くなる直前に要介護認定または要支援認定を受けていたこと(入所した時点では認定がなくても構いません)
- 入所先が、養護老人ホーム・特別養護老人ホーム・軽費老人ホーム・有料老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院など一定の施設であること
- 空いた実家を、事業に使ったり、親族以外の人に貸したりしていないこと
3つ目が重要です。実家を人に貸してしまうと、この特例が使えなくなります。「空けておくのはもったいないから」と賃貸に出した結果、相続税が増えることがあります。
出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」/同「老人ホームへの入所により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例」
生前に売るか、相続後に売るかは、税理士に相談する価値があります。3,000万円控除(生前)と小規模宅地等の特例(相続時)と空き家の3,000万円特別控除(相続後)は、どれが有利かが実家の評価額と相続人の数で変わります。相談料は数万円ですが、差は数百万円になることがあります。
進め方の順番
1. 名義と権利関係を確かめる
法務局で登記事項証明書を取ります(1通600円、オンラインなら安くなります)。祖父名義のままだったというケースが実際にあります。その場合は、まず祖父の相続から片付ける必要があり、何か月もかかります。早く知っておくほど楽です。
2. 親の希望を聞いておく
「売っていい?」と単刀直入に聞くと身構えられます。「この家、どうしたい?」から入るほうが話が続きます。残したい物、譲りたい相手、思い入れのある場所。判断能力がしっかりしているうちにしか聞けません。
聞いた内容は、書き留めてきょうだいで共有しておいてください。あとで「そんなこと言っていない」と揉める原因になります。
3. 査定だけ取ってみる
売ると決めていなくても、金額を知っておくと判断ができます。「解体して更地にすると300万円かかるが、売れば1,500万円になる」とわかれば、話が具体的になります。査定を取っただけでは売る義務は生じません。
4. 片付けは、決める前から始めていい
売る・貸す・残す、どれを選んでも中の物は出さなければなりません。ここだけは先に進められます。
むしろ、片付けを始めると「これは誰がもらう」「これは捨てられない」という会話が自然に生まれます。家をどうするかという大きな話より、物の話のほうが入りやすいことがよくあります。
5. 判断能力が不安になってきたら、早めに専門家へ
認知症の診断が出る前であれば、任意後見契約や家族信託という選択肢もあります。どちらも本人の判断能力があるうちにしか結べません。司法書士や弁護士に相談してください。
片付けと手続きを、きょうだいで
「実家じまいノート」は、実家の物を撮って「残す・もらう・売る・手放す」を分け、部屋ごとの片付け率と手続きの期限をまとめて管理できるiPhoneアプリです。親が健在の場合は、生前整理向けのリストに切り替わります。無料で始められます。
App Storeで見るよくある質問
親が施設に入ったあと、実家はすぐ売らないといけませんか
いいえ。ただし3,000万円特別控除を使いたい場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があります。急ぐ必要はありませんが、この期限だけは把握しておいてください。
子が親に代わって実家を売ることはできますか
親の判断能力がしっかりしていれば、委任状をもらって代理で手続きを進めることはできます。判断能力が落ちている場合は成年後見制度が必要になり、居住用不動産の売却にはさらに家庭裁判所の許可が要ります。許可なく売った場合、その売買は無効です。
施設に入る前に住んでいた家も「居住用不動産」に含まれますか
含まれます。裁判所は、現に住んでいる場合に限らず、施設入所のため今は住んでいないが将来住む可能性がある場合や、入所前に居住していた場合も含むとしています。
空き家のままにするなら、賃貸に出したほうが得ですか
家賃収入は入りますが、賃貸に出すと3,000万円特別控除も相続後の空き家特例も使えなくなり、小規模宅地等の特例も外れる可能性があります。リフォーム費用もかかるため、税金まで含めて計算しないと判断できません。
親が老人ホームに入っていたら、小規模宅地等の特例は使えませんか
一定の条件を満たせば使えます。亡くなる直前に要介護認定または要支援認定を受けていたこと、入所先が一定の施設であること、空いた実家を事業用や他人の居住用にしていないことが条件です。
出典
- 国税庁|No.3302 マイホームを売ったときの特例
- 国税庁|No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
- 国税庁|No.3314 過去に居住していたマイホームを売ったとき
- 国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
- 国税庁|老人ホームへの入所により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例
- 裁判所|成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可
- 内閣府|認知症施策推進関係者会議(第2回)資料9
- 生命保険文化センター|介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?
このページの内容は、公的機関が公開している情報をもとにした一般的な目安です。計算ツールの結果も概算であり、実際の税額は取得費・譲渡費用・所有期間・他の所得によって変わります。個別の判断は、税務署・法務局・家庭裁判所の窓口や、税理士・司法書士などの専門家にご確認ください。